「敬語が自然なら仕事になる」という誤解
コンサルティングで働く外国人材が抱きやすい誤解に、「丁寧な日本語で話せれば、顧客との会話は問題ない」というものがある。顧客に対する配慮は必要だが、経営コンサルタント、マーケティングコンサルタント、ITコンサルタントのいずれでも、会議で評価されるのは敬語のきれいさだけではない。
相談を受けたときに、何が事実で、何が仮説で、誰が何を決めるのか。その境目を短い日本語で置けるかどうかが、プロジェクトを前に進める。日本語が多少不自然であることより、「分かりました」と受けたあと、検討の範囲が人によって違っていた、という状態のほうが現場では困る。
たとえば顧客から「売上が伸びない原因を見てほしい」と言われた場面で、すぐに「分かりました。分析します」と返すと、売上全体を見るのか、特定商品の販売施策を見るのか、競合や営業体制まで扱うのかが残る。ここで必要なのは、過度にかしこまった表現より、仕事の輪郭を確認する問いである。
依頼を受けたら、対象と判断を言い分ける
コンサルティングの会話では、「確認します」が便利な一方で曖昧になりやすい。データを確かめるのか、社内で判断するのか、顧客に追加質問をするのかを分けて伝えると、相手は次の動きを読める。
例1 論点を狭める会話 顧客「採用がうまくいっていなくて。」コンサルタント「承知しました。今回は応募数の課題と、選考途中の辞退、どちらを中心に見ますか。」
「どちらが問題ですか」と断定的に聞くより、「どちらを中心に見ますか」と置くと、顧客が優先順位を示しやすい。人事コンサルティングでは、採用全体を一度に扱う前提を避ける言い方として使いやすい。
例2 調査と提案を切り分ける会話 上司「競合の事例も入れておいて。」担当者「はい。公開情報で確認できる施策を整理します。導入効果の評価までは、今回の資料では扱わない想定でよいでしょうか。」
この返答は「できます」と安易に請け負わず、資料に載せる事実と評価の範囲を確認している。コンサルタントは知識を多く語る役割と思われがちだが、調べていないことを資料上でどこまで言えるかを管理する役割でもある。
仮説は断言せず、弱くもしない
分析途中の説明で、「たぶん」「と思います」を繰り返すと、自信がない印象になることがある。反対に、根拠が十分でない段階で「原因です」と言い切れば、後から修正しにくい。実務では、仮説の根拠と未確認部分を一文に収める表現が使いやすい。
例3 社内レビューでの説明 「現時点では、価格より導入手続きの複雑さが離脱に影響している可能性があります。問い合わせ内容との照合はこれからです。」
「可能性があります」の前に観察した事実を置き、後ろで未確認の作業を示している。「現時点では」と添えることで、逃げではなく判断の時点を示せる。
例4 顧客への中間報告 「利用頻度が低い層に傾向は見えます。ただ、解約理由として特定するには、追加のヒアリングが必要です。」
「傾向」と「理由」を混同しない点が要になる。データから見える相関と、顧客が意思決定に使う原因説明は同じではない。日本語表現の選択が、そのまま提案の信頼性に関わる場面である。
資料の「言い切り」は、会議より後に残る
口頭の会議なら、その場で補足や訂正ができる。しかしスライド、議事録、提案書は担当者以外にも共有され、数週間後に前提だけが参照されることがある。そのため、資料では主語と条件を省きすぎないほうがよい。
たとえば「顧客は機能を求めている」は、誰へのどの調査に基づくのかが不明確だ。「ヒアリング対象者からは、検索機能への要望が多く聞かれた」とすれば、観察範囲が分かる。文章が少し長くなっても、結論の強さを事実に合わせるほうが、レビュー時の手戻りを減らしやすい。
- 事実:「アンケートでは、回答者の多くが操作手順を負担に挙げた」
- 解釈:「操作手順が継続利用を妨げている可能性がある」
- 提案:「手順を減らす案を優先的に検証したい」
この三つを同じ文に混ぜないだけで、顧客は「すでに分かっていること」と「これから判断すること」を追いやすくなる。
「持ち帰ります」に作業の出口を付ける
会議の終盤には、答えをその場で出せない質問が残る。「持ち帰ります」は失礼ではないが、何をして、いつ返すかがなければ、相手には保留に聞こえる。
例5 会議を閉じる場面 顧客「その施策の費用感は分かりますか。」コンサルタント「現時点の前提では算定が難しいため、必要な作業を分けて試算します。明日の午前中に、概算の条件をお送りします。」
「分かりません」で止めず、算定できない理由を前提に置き、返すものを具体化している。約束する日時は、確認できないのに早く言い切らないことも必要だ。会議後の議事録には、「費用感を確認」ではなく「作業別の概算条件を共有」と書く。小さな言い換えでも、提案前の曖昧さを案件の進行管理に変えられる。
