誤解されやすい「正確な翻訳」
会計・税務で働く外国人材には、「専門用語を正しい日本語に訳せば、仕事は伝わる」と考えてしまうことがあります。ただ、経理担当や監査担当が確認しているのは、単語の意味だけではありません。どの取引を、いつ、どの勘定科目で、どの資料を根拠に処理するのか。その前提まで共有できているかが、実務では問われます。
たとえば「この費用は今月計上します」とだけ伝えると、発生主義で処理するのか、請求書を受け取った月に処理するのかが分かりません。日本語が流暢でも、判断の範囲が曖昧なままだと、仕訳や監査調書のやり直しにつながります。
単語ではなく、判断の枠を示す
会計の会話では、結論だけでなく、対象・時点・根拠を短く添えると話が早くなります。
「この契約は、サービス提供が完了した月の費用として計上する認識です。契約書の第○条を根拠にしています」
ここでの「認識です」は、単に断定を避ける言葉ではありません。相手が会計方針や社内ルールと照合し、必要なら確認できる余地を残します。自分の判断を示しながら、まだ確定していない部分も伝えられます。
監査担当から質問を受けた場面なら、次のように答えられます。
監査担当「この売上は、納品日を基準にしていますか」
経理担当「はい。納品書上の受領日を基準に計上しています。請求日は翌月ですが、売上計上日は前月です」
「はい、そうです」で終わらせず、基準日を言い直せば、売上と請求の時期を混同していないことも伝わります。
税務では「会計上」と「税務上」を分ける
税務の現場では、会計処理と税務上の扱いが一致しないことがあります。「経費になります」という言い方も、誰の立場で、どの税目について話しているのかが分かりにくい表現です。
税理士に確認するなら、「会計上は費用処理していますが、法人税上も損金算入できるか確認したいです」のように分けて伝えます。消費税について尋ねる場合は、「この取引は、仕入税額控除の対象として扱えるでしょうか。適格請求書は受領済みです」と、論点と資料の有無を一緒に示します。
税務担当者「交際費として処理した理由を教えてください」
担当者「取引先との打ち合わせ後の飲食で、参加者は取引先二名と当社二名です。領収書と参加者の記録があります」
「仕事のための食事です」と説明するより、相手、目的、人数、証憑を順に示すほうが、確認する側は判断しやすくなります。
「確認します」は期限と対象まで言う
会計部門では、曖昧な返答が締め作業の遅れに直結します。「確認します」は便利な一方、何を、誰に、いつまで確認するのかが抜けると、対応状況が見えません。
「確認します」ではなく、「請求書の原本と契約条件を確認し、今日の十六時までに処理案を共有します」と伝えます。すぐに結論が出ない場合も、「現時点では判断できません。前年度の処理と税務上の取扱いを確認してから回答します」なら、保留の理由が分かります。
数値の違いを指摘するときは、相手の誤りと決めつけない言い方にすると、確認が進めやすくなります。
「試算表の旅費交通費が前月より増えています」ではなく、「前月比で三十万円増えています。出張精算二件が今月に含まれているためか、内訳を確認させてください」。差額という事実と、出張精算が理由かもしれないという仮説を分ければ、相手も資料を探しやすくなります。
締め日前の短いやり取りでは、「何を基準にした数字か」「根拠はどの資料か」「いつ回答するか」を一言添えるだけで、確認の往復を減らせます。
